【2025年版】MLB各アワード(MVP、サイ・ヤング賞、ROY)争いの行方は?各アワードの選考方法も解説

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2025年シーズンも残り1ヶ月を切ったMLBのレギュラーシーズン。優勝争い、ワイルドカード争いが白熱しておりますが、MVPやサイ・ヤング賞などの年間アワードの争いにも注目が集まっています。

MLBにおける年間アワードは、選手にとって最高の栄誉のひとつです。

MVP、サイ・ヤング賞、ルーキー・オブ・ザ・イヤー(ROY)の各賞はそのシーズンの偉業を象徴し、ファンにとってもシーズンを振り返る楽しみの一つです。

しかし、これらのアワードがどのように選ばれ、どんな基準で評価されているのかをご存じでしょうか?
「WAR(Wins Above Replacement)で一番ならMVP?」「サイ・ヤング賞は勝利数が重要?」「ROYの資格ってどう決まるの?」

こうした疑問は、多くの野球ファンが一度は抱くものです。

本記事では、今季のMVP・サイ・ヤング賞・ROY争いの見どころと、それぞれの選考方法を解説し、過去に起こったアワードの論争についてもご紹介します。

この記事を読むとより、各アワードに対しての理解が深まり、各アワードレースを楽しめるようになります。

MVPの選考方法は?

MLBの年間アワードは、野球の取材を専門とするジャーナリストで構成されるBBWAA(全米野球記者協会)の投票によって決定され、投票資格は現役のBBWAA会員であれば誰にでも与えられます

各アワードの投票者は、各MLBチームが本拠地を置く都市から2名ずつ選ばれ合計30名の記者によって行われます 。

MVP投票は各記者が1位票から10位票を投票します。順位によって付与されるポイントは以下のとおりです。

順位付与されるポイント
1位票14ポイント
2位票9ポイント
3位票8ポイント
4位票7ポイント
5位票6ポイント
6位票5ポイント
7位票4ポイント
8位票3ポイント
9位票2ポイント
10位票1ポイント

投票結果を集計し、トータル獲得ポイントで賞が決まります。

2025年シーズンのMVP候補まとめ

リーグごとにMVP候補となる選手を紹介していきます。

紹介している各選手の成績と指標についてはこちらの記事で解説しています。

ア・リーグのMVP候補

カル・ローリー(シアトル・マリナーズ)

サルバドール・ペレスが2021年に記録したキャッチャーの最多ホームラン記録48本を更新。

ホームラン数をどこまで伸ばすことができるのか注目です。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
142.2405311314.9231547.55.7

アーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)

今季もア・リーグのWARトップ。故障者リスト入りで離脱期間があったものの、ホームラン40本超えを達成。現地時間 9月9日の試合ではヤンキースの歴代5位となる通算359号ホームランを記録しています。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
134.3214498111.1031938.07.6

ボビー・ウィットJr.(カンザスシティ・ロイヤルズ)

今シーズンも高いパフォーマンスを見せていますが、MVP争いはローリー、ジャッジの一騎打ちとなりそうです。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
140.293217734.8521286.96.0

ナ・リーグのMVP候補

大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)

二刀流復帰で現在ナ・リーグのWARトップ!ドジャースが地区連覇となれば貢献度も高く、3年連続4度目のMVPの大本命。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+WAR(FanGraphs)oWAR(Baseball Reference)
142.2804891181.0011706.56.0
試合投球回勝利敗戦防御率奪三振WHIPWAR(FanGraphs)WAR(Baseball Reference)
1236.0113.75491.1941.40.4

カイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)

ここまでキャリア最多となる50本のホームランを放ち、フィリーズの優勝争いに貢献。

ホームラン数では現地時間9月7日まで大谷をリードしていますが、MVP受賞にはホームラン60本超えなどのインパクトを残す必要ありそうです。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
145.2405012310.9261514.34.3

フアン・ソト(ニューヨーク・メッツ)

開幕直後は成績を落とすも、6月以降は打率.281、ホームラン 29本、OPS .1024、wRC+ 182と巻き返します。キャリア初の30盗塁を記録し、ホームラン30本、30盗塁の「30-30」を達成!

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
143.261389430.9211575.25.8

各選手の成績は現地時間9月9日の試合終了時点のものです。

サイ・ヤング賞の選考方法

サイ・ヤング賞投票はMVP投票と同様に、現役のBBWAAの中から合計30名の記者の投票によって決められます。

サイ・ヤング賞投票は各記者が1位票から5位票を投票します。順位によって付与されるポイントは以下のとおりです。

順位付与されるポイント
1位票7ポイント
2位票4ポイント
3位票3ポイント
4位票2ポイント
5位票1ポイント

投票結果を集計し、トータル獲得ポイントで賞が決まります。

2025年シーズンのサイ・ヤング賞候補まとめ

 Image for Cy Young Award candidates in 2025

ア・リーグのサイ・ヤング賞候補

タリク・スクーバル(デトロイト・タイガース)

今シーズンも圧倒的なパフォーマンスでア・リーグのサイ・ヤング賞、最有力候補の1人。

試合投球回勝利敗戦防御率奪三振FIPWHIPfWARrWAR
28180.01342.102222.290.866.56.6

ギャレット・クロシェ(ボストン・レッドソックス

ホワイトソックス時代の昨シーズンに本格ブレイク!レッドソックス移籍後も圧巻のパフォーマンス。スクーバルと各成績では接戦ながらもWARでスクーバルがリード。最後まで目が離せない展開となりそうです。

試合投球回勝利敗戦防御率奪三振FIPWHIPfWARrWAR
29185.11552.572282.811.0775.45.5

ハンター・ブラウン(ヒューストン・アストロズ)

4年目の右腕。今シーズンはキャリアハイのパフォーマンスを見せています。残り少ない試合数で左腕2人にどこまで迫れるか。

試合投球回勝利敗戦防御率奪三振FIPWHIPfWARrWAR
28167.21172.251903.001.0144.55.8

ナ・リーグのサイ・ヤング賞候補

ポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)

昨シーズンのROYがリーグ最高のパフォーマンスを見せており、防御率は1点台に突入!ナ・リーグのサイ・ヤング賞有力候補筆頭です。

試合投球回勝利敗戦防御率奪三振FIPWHIPfWARrWAR
29173.01091.981952.421.0145.87.0

クリストファー・サンチェス(フィラデルフィア・フィリーズ)

ここまでキャリアハイを更新するパフォーマンスを見せている28歳の左腕。ナ・リーグの投手でWAR2位。スキーンズの対抗馬となっています。

試合投球回勝利敗戦防御率奪三振FIPWHIPfWARrWAR
28176.11252.601862.591.1175.56.7

各選手の成績は現地時間9月9日の試合終了時点のものです。

ルーキー・オブ・ザ・イヤー(ROY)の選出方法

an image for ROY voting

MVP、サイ・ヤング賞と同様に、現役のBBWAAの中から合計30名の記者の投票によって決められます 。

ROYは各記者によって、1位票から3位票が投票されます。順位によって付与されるポイントは以下のとおりです。

順位付与されるポイント
1位票5ポイント
2位票3ポイント
3位票1ポイント

投票結果を集計し、トータル獲得ポイントで賞が決まります。

ROY候補の資格要件

ROY候補となるためには、以下のいずれかの基準を満たす必要があります。

  • 130打席
  • 50イニング投球
  • ロースター枠が拡大する9月1日以前にアクティブロースターで45日間登録される(故障者リスト等を除く)

ROY投票結果で1位と2位の選手にはメジャー登録されていた日数に関係なくサービスタイムが1年加算されます。

MLBのROY資格は、日本のプロ野球(NPB)など、他国のプロリーグでのプレー経験を問わない点が特徴です

メジャーリーグでの経験が浅ければ、30歳以上で新人王を獲得することも可能であり、1950年には33歳でサム・ジェスローがROYを受賞しています。

サム・ジェスローの33歳でのROY受賞は、2025年現在も史上最高齢記録となっています。

NPBの新人王との違い

MLBのROYとNPBの新人王資格と比較すると、両リーグが「ルーキー」をどう定義しているか、考え方の違いがわかります。

NPBの新人王資格は、支配下登録から5年以内かつ海外プロリーグの経験がないことなどが条件となり、国内でキャリアを始めた若手選手を保護する志向が強いと言えます 。

一方、MLBは純粋に「メジャーリーグでの経験が浅い選手」を評価しており、この柔軟性こそが、野茂英雄、イチローや大谷翔平のような海外のトッププレイヤーが1年目からROYを獲得することを可能にしているのです。

2025年シーズンのROY候補まとめ

ア・リーグのROY候補

ニック・カーツ(アスレチックス)

今シーズン、メジャーデビューした22歳の新星。7月25日には1試合6安打、4ホームラン、8打点、19塁打を記録。1試合19塁打は1900年以降の記録では2002年のショーン・グリーン以来の快挙達成。

圧巻のパフォーマンスでア・リーグROY有力候補。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
101.300297321.0151734.24.8

ジェイコブ・ウィルソン(アスレチックス)

前半戦はROY有力筆頭でしたが、怪我の影響で1ヶ月ほど離脱。チームメイトのカーツが台頭し、カーツ優位に。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
110.31912565.8111243.02.8

ローマン・アンソニー(ボストン・レッドソックス)

6月にメジャーデビューした21歳のトッププロスペクト。出場試合数は少ないながら、ポテンシャルの高さを見せています。

現在は腹斜筋の肉離れにより、10日間の故障者リスト入りしています。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
71.2928324.8591382.73.1

ナ・リーグのROY候補

ケイド・ホートン(シカゴ・カブス)

先発ローテーションとして活躍。シーズン後半は安定した投球でカブスのプレーオフ争いに貢献。ナ・リーグROY有力候補の1人に。

試合投球回勝利敗戦防御率奪三振FIPWHIPfWARrWAR
21110.01042.70893.631.1092.01.7

アイザック・コリンズ(ミルウォーキー・ブルワーズ)

28歳とやや高齢ながらルーキー資格を保有。走攻守で安定したパフォーマンスを見せています。オールスター以降は特に攻撃面で存在感を示しています。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
120.27295416.7971262.72.3

ドレイク・ボルドウィン(アトランタ・ブレーブス)

開幕ロスター入りを果たしメジャーデビュー。ブレーブスの正捕手を獲得すると、高いパフォーマンスを発揮。キャッチャーという希少性でROY候補の1人となっています。

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
108.27315640.7871202.52.4

各選手の成績は現地時間9月9日の試合終了時点のものです。

2024年シーズンの各アワードの受賞者はこちらの記事で紹介しています。

各アワードの投票ルールと投票期間

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前述しているとおり、各アワードは、各MLBチームが本拠地を置く都市から2名ずつ選ばれ合計30名の記者が投票します。

これは特定の地域に偏らない広範な意見を反映させるための措置です。

投票期間はレギュラーシーズン終了後からポストシーズン 開始まで

投票はレギュラーシーズン終了後、ポストシーズンが始まる前に行われます

これはアワードが純粋にレギュラーシーズン中のパフォーマンスを評価することを保証するものです。

選手がポストシーズンでどれほど歴史的な活躍を見せたとしても、その貢献はMVPやサイ・ヤング賞の評価には全く反映されません

ポストシーズンでの活躍こそが真の「価値」であると考えるファンも少なくないため、この選考基準と一部ファンとの感覚との間に乖離が生じることもあります。

”MVP” 最も価値ある選手を巡る定義なき議論

intense debate about MVP image

MVP(Most Valuable Player)は、両リーグで最も価値のある選手に与えられる栄誉です。

この賞の最も特徴的な点は、投票用紙に「最も価値ある」という言葉に明確な定義がないことが明記されており、その解釈が各投票者の裁量に委ねられていることです 。

評価基準は「チームへの実際の価値」「攻守両面での貢献」「人柄、献身性」といった項目が挙げられていますが、これらには主観的な要素が含まれています 。

歴史的に見ると、「優勝に貢献した選手を選ぶ」という視点が強かった時代から、1990年代以降は個人として傑出した成績を収めた選手がより重視される傾向に変わってきました 。

近年では、セイバーメトリクス指標、特にWARが、各選手の貢献を横断的に比較する役割を果たしています

しかし、WARリーダーが必ずしもMVPを受賞するわけではなく、伝統的な成績や選手の「ストーリー」も依然として投票に影響を与えています 。

ピッチャーのMVP問題

MVPを巡る議論は、特に投手が歴史的なシーズンを送った際に顕在化します。

サイ・ヤング賞が創設された1956年以降、投手にはサイ・ヤング賞があるのでMVPは野手に与えるべきという「一種の不文律」が生まれました。

サイ・ヤング賞創設以降、現在まで投手のMVP受賞者は以下のとおりです。

受賞年投手名(MVP受賞時の所属チーム)
1968年デニー・マクレイン(タイガース)
1968年ボブ・ギブソン(カージナルス)
1971年ヴァイダ・ブルー(アスレチックス)
1981年ロリー・フィンガーズ(ブルワーズ)
1984年ウィリー・フェルナンデス(タイガース)
1986年ロジャー・クレメンス(レッドソックス)
1992年デニス・エッカーズリー(アスレチックス)
2011年ジャスティン・バーランダー(タイガース)
2014年クレイトン・カーショウ(ドジャース)
2021年大谷翔平(エンゼルス)
2023年大谷翔平(エンゼルス)

2021年と2023年の大谷翔平は「二刀流選手」としての受賞のため、二刀流選手を除く投手」としてのMVP受賞は9人のみで、その希少性がわかります。

2014年 クレイトン・カーショウがMVP受賞の際の論争

2014年にドジャースのクレイトン・カーショウがナ・リーグの投手として、ボブ・ギブソン以来、46年ぶりのMVPを受賞。

カーショウは21勝3敗、防御率1.77、239奪三振、fWAR 7.9、rWAR 7.7と圧倒的な成績を残し、6月18日にはノーヒッターも達成するなどドジャースの地区優勝に大きく貢献し、サイ・ヤング賞とMVPを同時受賞しました。

投票結果はカーショウが30人中18人から1位票を獲得し、MVP受賞。対抗馬のジャンカルロ・スタントン(fWAR 6.8、rWAR 6.5)やアンドリュー・マカッチェン(fWAR 7.5 、rWAR 6.4)を抑えての受賞となりました。

2014年シーズンのマーリンズは地区4位、パイレーツは地区2位(ワイルドカード獲得)で、チームの順位やWAR 共にカーショウ優位ですが、票数の分散から野手の2人を推す層がいたことが伺えます

MVPは野手に優先的に与るべきか?

サイ・ヤング賞は投手に特化した賞であり、MVPはチーム全体への貢献度を評価する賞とされています。

2011年のジャスティン・バーランダーがサイ・ヤング賞とMVPを同時受賞した際もそうでしたが、「投手は出場試合数の限られた中での貢献でありながら、野手はほぼ毎日試合に出場し、その貢献度は投手以上」という観点からMVPは野手を優先すべきとの意見が出ました。

しかし、前述のとおり、MVPの選考基準に明確な定義がなく、その曖昧さが指摘されています。

今後、投手がMVPを受賞することになった際にはサイ・ヤング賞とMVPついての議論が深められ、それぞれの役割が明確になるかもしれません。

過去に起きたMVP論争 2022年のア・リーグMVPをめぐるアーロン・ジャッジと大谷翔平の「価値をめぐる定義」

intense debate image for MVP


2022年シーズンのア・リーグ MVPは、ヤンキースのアーロン・ジャッジとエンゼルスの大谷翔平という、MLB史上でも稀に見るハイレベルな争いとなりました。

最終的にジャッジが受賞しましたが、このMVP争いは、従来の「最も価値のある選手」というMVPの定義を巡る議論に発展。

ジャッジは、本塁打王と打点王の二冠を獲得し、ア・リーグのシーズン本塁打記録を61年ぶりに更新するという、伝統的な野球観における歴史的快挙を達成

大谷は、打者としてリーグトップクラスの成績を残しながら、投手としても自己最多の勝利数を挙げ、ワールドシリーズが創設された1903年以降で初の規定打席・規定投球回の同時達成という偉業を達成しました。

この議論は、野球の「伝統」と「革新」の衝突を象徴するものとなりました。

2022年 ア・リーグMVP投票結果

選手名(所属チーム)1位票2位票3位票総ポイント最終順位
アーロン・ジャッジ(NYY)28204101
大谷翔平(LAA)22802802
ヨルダン・アルバレス(HOU)00222323
ホセ・ラミレス(CLE)0061864

投票結果はBBWAAより引用 https://bbwaa.com/22-al-mvp/

ジャッジと大谷の2022年シーズンの成績

アーロン・ジャッジの2022年シーズンの成績

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+fWARrWAR
157.31162131161.11120611.110.8


ジャッジは、ロジャー・マリスが1961年に樹立した、ア・リーグのシーズン最多本塁打記録を61年ぶりに更新するという歴史的な偉業を達成。

さらに、打点、出塁率、OPSでもリーグトップの成績を残し、打撃部門において圧倒的な支配力を見せつけました。

大谷翔平の2022年シーズンの成績

打撃成績

試合打率HR打点盗塁OPSwRC+WAR(FanGraphs)oWAR(Baseball Reference)
157.273349511.8751423.63.5

投手成績

試合投球回勝利敗戦防御率奪三振WHIPWAR(FanGraphs)WAR(Baseball Reference)
28166.01592.332191.0125.66.2


大谷は、史上誰も成し遂げたことのない「二刀流」での偉業をさらに進化させ投打両方で「規定到達」を達成。投手としても打者としてもリーグトップクラスのパフォーマンスを見せました。

論争のポイントとそれぞれを推す声

アーロン・ジャッジを推す声

  • 歴史的な偉業: 62本塁打という記録は、野球界において圧倒的なインパクトと注目度を誇りました。その記録自体が、この年の野球界の最大の話題の一つとなりました。
  • チームの成功への貢献: ジャッジはチームの勝利に直接的に貢献し、ヤンキースを地区優勝に導きました。MVPの定義には「チームの勝利への貢献度」が含まれるという考えが根強く、その点でポストシーズン進出を逃した大谷よりも優れているとされました。
  • 伝統的な価値観: 現代の野球は専門化が進み、二刀流という存在自体が異次元である一方、ジャッジの活躍は「純粋な打者」としての最高峰のパフォーマンスでした。この分かりやすさと圧倒的な数字が、多くの票を集める要因となりました。

ジャッジの活躍は単なる数字の優位性だけでなく、ヤンキースという「名門」で、ステロイド時代を凌駕する「クリーンな記録」を樹立したという強力なインパクトを与え、伝統的な野球観を持つ多くの投票者にとって、チームの成功と結びついた「最も価値のある」存在の完璧な具現化となりました。

大谷翔平を推す声

  • 唯一無二の存在: 大谷は投手と打者を一人でこなすことで、チームに「2人分の価値」をもたらしているという主張です。
  • WARの数値: 勝利貢献度を示すWARの合計値は、大谷が投打両面でチームに与えた影響の大きさを裏付けるものでした。
  • 「価値」の再定義: 大谷の活躍は、従来のMVPの概念を打ち破るものであり、「史上最も価値のあるシーズン」を送ったのは彼であるという意見でした。チームの勝敗は他の多くの選手に左右されるため、個人の貢献度を評価するべきだという考え方です。

大谷のパフォーマンスは既存の評価指標の限界を浮き彫りにし、一部の専門家からは、彼の二刀流の価値は「測定不能」であり、WARのような先進的な指標ですら、彼の真のインパクトを完全に捉えきれていないという議論がなされました。

2022年のMVP論争が野球界に残したもの

2022年ア・リーグMVP論争は、ジャッジの勝利という形で決着しました。

この結果は、歴史的記録とチームへの明確な貢献という、伝統的な「MVP像」が、革新的な「二刀流」という新たな価値観を上回ったことを示しました。

ジャッジは、薬物疑惑の影に覆われた時代の記録を刷新し、ヤンキースを牽引するという、伝統的な野球のストーリーで、完璧なシーズンを過ごしました。

このストーリーは、多くの投票者にとって、大谷の二刀流というで新しい概念よりも明確で、「価値のある」ものとして認識されました。

しかし、この議論は二刀流という新しい概念に対する野球界への「理解」を深める重要な過程となったと言えます。

大谷は翌年の2023年に満票でMVPを受賞し、二刀流の価値を不動のものとしました。

現代野球におけるMVPの価値観を巡る重要な議論となり、MVPの定義や評価方法について、野球界全体で再考されるきっかけになったと言えるでしょう。

サイ・ヤング賞 投手最高の栄誉とその評価基準

an image of Cy young award

サイ・ヤング賞は、各リーグで最も優れた投手1名に与えられる栄誉です。

投票のポイントシステムは、歴史的な出来事に対応して進化してきました。1969年には、デニー・マクレインとマイク・クェラーがア・リーグで史上初のタイ受賞

これを受けて、投票システムは1970年以降に変更され、より複雑なポイントシステム(7-4-3-2-1点)が導入されることになりました 。

サイ・ヤング賞にもMVP賞と同様に明確な定義はありませんが、投票者はイニング数、防御率、奪三振、FIP、WARなど、さまざまな指標を総合的に判断します 。

投票内容が公開されるため、記者は個人的な好みではなく、客観的なデータに基づいた選考を求められます 。

リリーフ投手がサイ・ヤング賞を受賞できなくなった理由

過去、リリーフ投手でサイヤング賞を受賞した投手は9人しかいません

特に1990年代以降の受賞者は2人のみで、2003年のエリック・ガニエを最後にリリーフ投手のサイ・ヤング賞受賞者はいません。

受賞年選手名(所属チーム)
1974年マイク・マーシャル(ドジャース)
1977年スパーキー・ライル(ヤンキース )
1979年ブルース・スーター(カブス)
1981年ローリー・フィンガーズ(ブルワーズ)
1984年ウィリー・ヘルナンデス(タイガース)
1987年スティーブ・ペドローシアン(フィリーズ)
1989年マーク・デイビス(パドレス)
1992年デニス・エカーズリー(アスレチックス)
2003年エリック・ガニエ(ドジャース)

リリーフ投手のサイ・ヤング賞受賞が困難な理由は投球イニングが先発投手と比べて少ないことにあります。

多くの記者は、例え圧倒的な成績を残したとしても、70イニングしか投げないリリーフ投手が、200イニング近く投げた先発投手と同等の価値を持つとは考えません。

特に分業が進んだ近代野球では先発投手とリリーフ投手の中でも中盤を任される投手、セットアッパー、クローザーと役割の明確な分業化が進み、リリーフ投手が1試合で複数イニングを投げることは少なくなりました

リリーフ投手には、既に「マリアーノ・リベラ賞」「トレバー・ホフマン賞」といった、その役割に特化したアワードが設けられており、これがサイ・ヤング賞の「先発投手優位」としての地位をさらに強くしている側面もあります 。

長いイニングを投げ、多くの三振を奪うことができる先発投手の方がWARも稼げることから、サイ・ヤング賞上位投票されるために有利になります。

過去のサイ・ヤング賞投票の珍事例 〜2016年のサイ・ヤング賞投票〜

過去の事例として、複雑で僅差の結果となり、リリーフ投手もサイ・ヤング賞候補となった2016年のア・リーグ、サイ・ヤング賞投票を見てみましょう。

選手名(所属チーム)勝利数防御率奪三振投球回fWARrWAR総合ポイント最終順位
リック・ポーセロ(BOS)223.15189223.05.14.71371
ジャスティン・バーランダー(DET)163.04254227.25.47.41322
ザック・ブリットン(BAL)20.547467.02.54.1724

投票では、ジャスティン・バーランダーが最多の1位票、14票を獲得しましたが、1位票、8票リック・ポーセロが僅差でバーランダーを破り、サイ・ヤング賞を受賞しました。

なぜこのような結果になったかと言うと、ポーセロは2位票を最多の18票獲得し、3位票以下が少なく、総ポイント137を獲得

一方のバーランダーは2位票が2票、3位票が5票、4位票が4票、5位票が3票で、総ポイント132を獲得。わずかにポーセロに及ばず、最多の1位票を獲得しながらも、サイ・ヤング賞を逃すと言う珍しい事例となりました。

また、リリーフのザック・ブリットンがサイ・ヤング賞投票4位となりました。2016年シーズンは0.54という驚異的な防御率を記録し、1位票を5票獲得しながらも5位票も9票と多く、総ポイントは72となりました。

2016年 ア・リーグサイ・ヤング賞投票結果

選手名1位2位3位4位5位総ポイント
リック・ポーセロ(BOS)818211137
ジャスティン・バーランダー(DET)142543132
コーリー・クルーバー(CLE)36128198
ザック・ブリットン(BAL)5325972
クリス・セール(CHW)149640

投票結果はBBWAAより引用 https://bbwaa.com/16-al-cy/

まとめ

MLBの年間アワードは、BBWAA(全米野球記者協会)の投票によって決定され、投票資格は現役のBBWAA会員に与えられます 。

各アワードの投票者は、各MLBチームが本拠地を置く都市から2名ずつ選ばれ合計30名の記者によって行われます 。

今シーズンも残すところ1ヶ月を切り、各アワード争いも白熱の展開となるでしょう。

ご紹介したように過去にも各アワードの結果をめぐる論争が巻き起きたように、今シーズンのアワードの結果も論争が起こるかもしれません。

しかし、それもMLBの楽しみ方の一つと言えます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が参考になれば幸いです。

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選手成績の参考 FanGraphs https://www.fangraphs.com/

Baseball Reference https://www.baseball-reference.com/

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