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日本人選手がメジャーリーグへ挑戦する際によく聞かれる「ポスティング」制度をご存じでしょうか。
今オフも複数の日本人選手がポスティングシステムを利用してメジャーリーグへの挑戦を表明しています。
「FAとの違いは?」
「日本の球団にはどのくらいお金が入るの?」
と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
- ポスティングシステムの仕組み
- ポスティング申請期間と期限
- 移籍時に支払われる譲渡金の計算方法
- ポスティング制度の変遷
- 実際にポスティングを利用してMLBへ移籍した選手
以上を解説しています。
この記事を読めば、ポスティング制度の全体像が理解でき、オフシーズンの移籍ニュースがもっと楽しめるようになります。
ポスティングの仕組み

ポスティングシステムとは、NPB所属の選手がFA権を取得する前にMLBへ移籍するための制度です。
選手が所属球団の承認を得て申請が行われることで、MLB球団との交渉が可能になります。
日本人選手がMLBに挑戦する主な方法は?
NPBの選手は契約保留選手名簿に登録されており、基本的に所属球団が保有権を持っています。
MLBを含む他球団と交渉するには、以下の方法があります。
- 自由契約になる
- FA権(海外FA権)を取得して行使する
しかし、海外FA権の取得には一軍登録日数145日 × 9年(最短)という長い期間が必要です。
ポスティングシステムは選手が早期にメジャー移籍を実現するために必要な制度
FA権を取得するのを待ってメジャー挑戦を目指すと、大抵の選手は30代になっており、キャリアの全盛期を過ぎてからの挑戦となってしまいます。
選手が若くしてMLBに移籍するために、主流となっているのがポスティングシステムの利用です。
選手は所属球団の承認を得た上で、ポスティング申請され、MLB各球団との交渉が可能となります。
選手とMLB球団との契約が成立すると、前所属球団は選手の保有権を放棄する代わりに移籍先の球団から譲渡金を受け取る仕組みとなっています。
ポスティングとFAの違い
ポスティングとFAの違いは、簡単に言うと移籍に球団の承認が必要か否かです。
ポスティングは選手がMLBに移籍したい旨をNPB所属球団に伝え、球団がポスティングの利用を承認・申請します。選手がMLB球団と契約合意されると、選手の保有権がNPB球団からMLB球団に譲渡されます。
一方のFAは、選手がFA権を獲得し、権利を行使することで前所属球団は選手の保有権がなくなり、自由にMLB球団と交渉することが可能となります。FA権は行使する必要がありますが、所属球団の承認を得る必要はありません。
| 制度 | 保有権 | 球団の承認 |
|---|---|---|
| ポスティング | 契約成立まではNPB球団が保有 | 必要 |
| FA(海外FA) | 権利行使で保有権がなくなる | 不要 |
ポスティングの流れ
ポスティングの流れは以下の通りです。
- 選手が所属球団にMLB移籍を申し入れる。
- 球団がポスティング利用を承認、NPBコミッショナーを通じてMLBへ申請。
- MLBが申請を受理、各MLB球団に公示。
- 選手が各MLB球団と自由交渉。
- 選手とMLB球団が契約合意。
- 選手の保有権が移り、MLB球団が前所属球団へ譲渡金を支払う。
ポスティング(入札)という言葉が使われていますが、現行制度では実際に選手に入札が行われるわけではなく、ポスティング申請した後は選手が各球団と自由に交渉することができます。
よって、ポスティングされた選手は「インターナショナルFA選手」と同じように扱われます。
インターナショナルFAはこちらの記事で詳しく解説しています。
ポスティング申請期間と期限
ポスティングの申請期間は 毎年11月1日〜12月15日です。
申請をMLBが受理し、各球団へ公示された翌日から 45日間がMLB球団との交渉期間となります。
もしこの45日間で契約がまとまらなかった場合、翌シーズンまでポスティングは再申請できません。
2025-2026 ポスティング申請中の日本人選手の交渉期限一覧
2025年シーズン終了後にポスティング申請した日本人選手は4人。各選手の交渉期限は以下の通りです。
- 村上宗隆:12月22日(日本時間12月23日午前7時)
- 今井達也:2026年1月2日(日本時間2026年1月3日午前7時)
- 岡本和真:2026年1月4日(日本時間2026年1月5日午前7時)
- 髙橋光成:2026年1月4日(日本時間2026年1月5日午前7時)
譲渡金の計算方法
譲渡金の計算方法は選手の契約内容(メジャー契約かマイナー契約か)によって異なり、メジャー契約の場合は契約総額によって金額が変わります。
メジャー契約の場合、譲渡金は 契約総額に応じた段階式 で決まります。
| 契約総額の区分 | 割合 |
|---|---|
| 2,500万ドル以下の部分 | 20% |
| 2,500万ドル超〜5,000万ドルの部分 | 17.5% |
| 5,000万ドルを超える部分 | 15% |
契約総額の計算例
契約総額2,500万ドル以下の譲渡金の計算:総額の20%
契約総額2,500万ドルを超え、5,000万ドル以下の場合の譲渡金の計算:2,500万ドルの20%+2,500万ドルを超えた金額の17.5%
契約総額5,000万ドル超えの譲渡金の計算:2,500万ドルの20%(500万ドル)+2,500万ドルを超えた金額の15%(437.5,万ドル)+5,000万ドルを超えた金額の15%
このように契約額により、段階的に計算されます。
マイナー契約の場合
契約金の 25%
25歳以下の若手選手がMLB挑戦をする場合や、契約時点でメジャー枠が確約されていないケースではこちらが適用されます。
- 契約期間中に選手が追加で得たインセンティブ
- オプション行使して得た年俸
- マイナー契約の選手のメジャー昇格時に受け取る年俸の15%
25歳ルールとは?

ポスティングによる選手のメジャー挑戦が話題となるときに「25歳ルール」という言葉を聞いたことがあると思います。
25歳ルールとは25歳未満またはプロ6年目未満の海外選手をMLB球団が契約する際に、契約金や契約総額が制限され、マイナー契約しか結べないという内容の労使協定です。
対象はMLBドラフトの対象となるアメリカ、カナダ、プエルトリコ以外の国の選手です。
25歳ルールが制定されている理由
MLB球団のドミニカやベネズエラなどの中南米選手の青田買いによる契約高騰を防止する目的で導入されました。
契約金の上限がないと資金力のある球団が将来有望な中南米出身選手を大量に獲得してしまうためです。
現行のルールは2016年12月から導入されています。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
25歳ルールの問題点
本来はMLB球団の中南米選手乱獲による契約高騰を抑制するために制定されたルールですが、MLBドラフトの対象外となるNPBに所属する日本人選手も25歳ルールの対象となります。
25歳ルールの問題点としてよく議論されるのは以下の通りです。
選手側の金銭的機会損失
マイナー契約となるため、契約金や年俸が大幅に制限されます。MLBキャリア初期に得られる最大報酬を得る機会が失われる可能性があります。
NPB球団の選手流出と大型契約を逃すことにより譲渡金が安価となる
NPB球団としては有望な若手選手を失い、マイナー契約による選手の契約額が制限されることで、流出した選手の譲渡金が安価となってしまいます。
ポスティングシステムの変遷とポスティングを利用してMLB球団へ移籍した主な選手

ポスティングは1998年に日米選手の契約に関する協定に基づいて導入されました。
導入以前は1995年に野茂英雄が、1998年にはアルフォンソ・ソリアーノが任意引退することでMLBに移籍を実現。
1996年には伊良部秀樹がトレードでパドレスを経由してヤンキースへ移籍。この移籍は日米を巻き込む騒動となり、1998年のポスティングが成立の背景となる出来事の一つでした。
ポスティング制度は導入以来、選手側と球団側のバランスを調整するため複数回の変更が行われてきました。
1998年〜2012年:封印入札方式
ポスティングが制度化された1998年から2012年までは封印入札方式が採用されていました。
封入入札方式とはMLB球団によるポスティング選手の「せり」です。
この時代のポスティングの流れは以下の通りです。
- 移籍を希望する選手のNPB所属球団がNPBコミッショナーを通じてMLBコミッショナーが契約可能であることを告知。
- 移籍希望選手との契約交渉希望のMLB球団はコミッショナー公示から期限内に金額を非公開で入札。最高入札額はNPB球団へ通達。NPB球団は落札を承認もしくは金額を不服としてポスティング申請を撤回します。
- 落札額が承認されると落札球団が公開、選手との独占交渉権が与えられ、申請受理日の翌日から30日間交渉可能。
- 入札額の上限はなし、選手が契約合意に至るとNPB球団に落札額が支払われます。(一括払い)
成立した主なポスティング
| 年度 | 選手名 | 前所属球団 | 落札球団 | 落札額 |
| 2000年 | イチロー | オリックス | マリナーズ | 1,312万ドル |
| 2001年 | 石井一久 | ヤクルト | ドジャース | 1,126万ドル |
| 2003年 | 大塚晶文 | 中日 | パドレス | 30万ドル |
| 2004年 | 中村紀洋 | 大阪近鉄 | ドジャース | 非公開 |
| 2005年 | 森慎二 | 西武 | デビルレイズ | 75万ドル |
| 2006年 | 松坂大輔 | 西武 | レッドソックス | 5,111万ドル |
| 2006年 | 岩村明憲 | 東京ヤクルト | デビルレイズ | 450万ドル |
| 2006年 | 井川慶 | 阪神 | ヤンキース | 2,600万ドル |
| 2010年 | 西岡剛 | 千葉ロッテ | ツインズ | 532万ドル |
| 2011年 | 青木宣親 | 東京ヤクルト | ブルワーズ | 250万ドル |
| 2011年 | ダルビッシュ有 | 北海道日本ハム | レンジャーズ | 5,170万ドル(最高額) |
2014年〜2017年:譲渡金設定方式
封印入札制度では選手との独占交渉権が与えられるのが1球団のみで、選手に球団を選択する自由が認められていないなどの問題点があり、制度の改正が行われました。
2012年までの制度の問題点を踏まえて、NPB球団側が譲渡金の金額を2,000万ドルを上限として設定し、譲渡金に応札したすべてのMLB球団と契約交渉ができる制度に変更されました。
- 選手の所属NPB球団が譲渡金の額を設定し、ポスティング申請。
- 選手は応札したすべての球団と契約交渉可能。
- 契約合意した球団から譲渡金が支払われる。(一括もしくは分割払い)
成立した主なポスティング
| 年度 | 選手名 | 前所属球団 | 落札球団 | 落札額 |
| 2013年 | 田中将大 | 東北楽天 | ヤンキース | 2,000万ドル |
| 2015年 | 前田健太 | 広島 | ドジャース | 2,000万ドル |
| 2017年 | 大谷翔平 | 北海道日本ハム | エンゼルス | 2,000万ドル |
| 2017年 | 牧田和久 | 埼玉西武 | パドレス | 50万ドル |
2018年〜:現行制度
2018年以降は契約額に応じて譲渡金が変動する現在の方式となっています。
成立した主なポスティング
| 年度 | 選手名 | 前所属球団 | 落札球団 | 落札額 |
| 2018年 | 菊池雄星 | 埼玉西武 | マリナーズ | 1,027万ドル |
| 2019年 | 筒香嘉智 | 横浜DeNA | レイズ | 240万ドル |
| 2019年 | 山口俊 | 巨人 | ブルージェイズ | 127万ドル |
| 2020年 | 有原航平 | 北海道日本ハム | レンジャーズ | 124万ドル |
| 2021年 | 鈴木誠也 | 広島 | カブス | 1,462万ドル |
| 2022年 | 吉田正尚 | オリックス | レッドソックス | 1,537万ドル |
| 2022年 | 藤浪晋太郎 | 阪神 | アスレチックス | 65万ドル |
| 2023年 | 山本由伸 | オリックス | ドジャース | 5,062万ドル |
| 2023年 | 今永昇太 | 横浜DeNA | カブス | 982万ドル |
| 2023年 | 上沢直之 | 北海道日本ハム | レイズ | 6,250ドル |
| 2024年 | 佐々木朗希 | 千葉ロッテ | ドジャース | 162万ドル |
| 2024年 | 青柳晃洋 | 阪神 | フィリーズ | |
| 2025年 | 小笠原慎之介 | 中日 | ナショナルズ | 70万ドル |
| 2025年 | 村上宗隆 | 東京ヤクルト | ホワイトソックス | 657万ドル |
まとめ:ポスティング制度はMLB挑戦を後押しする重要な仕組み
ポスティング制度は
- NPB球団の保有権を尊重しつつ
- 選手が若いうちからMLBへ挑戦でき
- 球団も譲渡金という形で補償が得られる
バランスの取れた移籍システムです。
今後もNPBのスター選手のMLB挑戦は増え、ポスティング制度はその度に注目されます。
申請時期・期限・譲渡金の計算方法を理解しておくと、オフシーズンのポスティングを利用した移籍報道がより深く楽しめるようになります。
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