【2025年版】MLB贅沢税(CBT)完全ガイド!仕組み・基準額・歴代対象チームを解説

MLB


MLBの贅沢税という言葉を耳にしたことはありますか?

贅沢税はMLBの戦力均衡化を図るための制度で、その算出方法や課税率、ペナルティのルールはやや複雑です。

この難解な制度の知識がなくてもMLBは十分に楽しめますが、契約内容が公開されているMLBにおいて贅沢税の仕組みを理解しておくと、FA市場の動向などオフシーズンもより楽しむことができます。

私は2001年からMLBを観戦しており、観戦歴は25年です。

この記事では、贅沢税の概要と導入された背景から贅沢税の対象となる年俸総額の計算方法、2025年の最新基準額、課税率とペナルティ、球団経営への影響まで、初心者にもわかるように網羅的に解説します。

MLBの贅沢税(CBT)とはリーグの戦力均衡化を図る制度

MLBの贅沢税は、正式には「Competitive Balance Tax(CBT)」と呼ばれ、年俸総額が一定額を超えた球団に課される税制度です。

サラリーキャップを導入していないMLBにおいて、資金力のある球団の無制限な補強を抑制し、リーグ全体の戦力均衡化を図る重要な仕組みとなっています。

※この記事では便宜上、名称を「贅沢税」で統一します。

他の北米スポーツリーグとの違い

NBA・NFL:サラリーキャップ制を導入しており、基準額を超過することは原則不可です。

MLBはサラリーキャップ制はなく、代わりに贅沢税制を導入しています。

リーグ制度超過可否
NBA / NFLサラリーキャップ制基準額超過は原則不可
MLB贅沢税制超過可能だが課税がある

この制度により、チームは基準額を超えて選手を獲得することは可能ですが、超過した分には税金が課されるため、実質的な抑制効果を生み出しています。

徴収された贅沢税の使途

贅沢税として徴収された資金は特定の目的に充てられます。

  • 選手への福利厚生
  • リーグ成長基金(IGF)
  • 贅沢税対象外チームへの分配

選手への福利厚生、野球の国際的な普及活動のための基金(IGF)、贅沢税課税対象外チームへの分配やスモールマーケットチームへの救済など、幅広く使用されています。

MLBにサラリーキャップが導入されなかった理由は?

MLBにサラリーキャップが導入されなかった最大の理由は、選手会が強く反対し続けてきたためです。

1994年には経営者側がサラリーキャップ導入を求めたことにより、選手会がストライキを決行し、232日間のストライキとワールドシリーズの中止という事態に発展しました。

収益構造の違いと利害対立

MLBはローカル放映権やチケット収入が大きく、ビッグマーケット(大都市球団)スモールマーケット(小規模球団)で事情が大きく異なります。

サラリーキャップはスモールマーケットチームには有利ですが、ビッグマーケットチームやトップ選手の利益にはマイナスであり、加えて収益格差がNFLやNBAに比べて大きいため、現実的な合意形成が困難となっています。

2021年の労使協定交渉では最低年俸引き上げ、贅沢税の基準額増額、若手向けボーナスプール新設、プレーオフ拡大などをめぐり激しく対立。

オーナー陣がロックアウト(オーナー側が労働者を締め出す行為)を実施。シーズン開幕が危ぶまれました。

贅沢税の対象となる年俸総額の計算方法

贅沢税の対象となる年俸総額は実際の年俸総額とは異なるので注意が必要です。

贅沢税計算上の年俸総額は契約総額を契約期間で均等に割った平均年俸であるAAV(Average Annual Value)が用いられます。

なお贅沢税の対象となる年俸総額が確定し、計算されるのはシーズン終了後です。

AAVに含まれるもの

  • 契約金(Signing Bonus):贅沢税の計算上、AAVに含めて計算されます。
  • 出来高(Incentive):選手の契約内容により出来高が発生した場合はAAVに含まれます。
  • プレイヤーオプション:選手側が行使の決定権を持つため、契約最低保証額として計算されます
  • クラブオプション:オプション行使シーズンの年俸はAAVに含まれます。
  • 相互オプション:オプション行使シーズンの年俸はAAVに含まれます。
  • バイアウト:クラブオプションや相互オプションが破棄された際にバイアウトの金額が前年までの契約に組み込まれます
  • ベスティングオプション:選手が特定の基準を満たした際はオプションが行使され、保証年数とみなされるため、AAVに含まれます。

契約用語やオプションについてはこちらの記事で解説しています。

AAVが減額・低くなるケース

  • 出場停止処分:選手が出場停止処分を受けた場合、出場停止となった試合分が無給扱いとなり、AAVが減額されるケースがあります。
  • 後払い契約(繰延報酬):後払い契約は現在価値で計算されるため、将来支払われる金額が現在価値に割引かれることによって、AAVが実質的に低くなります

トレードされた選手の年俸は按分される

シーズン途中にトレードされた選手の年俸は前所属チームと移籍後チームの按分で計算されます。

長期契約選手がトレードされた場合は、トレード時点からの残契約からAAVが再計算されます。

その他の贅沢税の対象となる年俸総額に含まれるもの

  • 福利厚生:終身医療保険、労災保険、失業保険、食事代やトレード時の引越し費用など。
  • 調停前ボーナスプール:年俸調停権を持たないメジャーリーグ3年目未満の若手選手を対象に、選手の活躍に応じてボーナスを支給する制度です。

調停前ボーナスプールの原資はリーグ全体で拠出されルーキー・オブ・ザ・イヤー、MVP、サイ・ヤング賞やWARをもとに年間で活躍した上位選手に分配されます。

贅沢税の基準額に応じた課税率とペナルティ

毎年、年俸総額が所定の基準額を超えたチームは贅沢税の対象となります。連続して基準額を超えた場合は年数に基づいて税率が上昇します。

2025年の贅沢税基準額とマルチティア制度

2022〜26年の 労使協定によると、2025シーズンの贅沢税基準額は$241Mです。

2023年から2026年までの基準額は以下の通りです。

年度基準額
2023年$233M
2024年$237M
2025年$241M
2026年$244M

選手年俸やインフレを加味して基準額は毎年上昇するよう設定されています。

基準額超過時の課税率

基準額を超過した時の課税率は以下の通りです。

  • 初年度: 20%
  • 2年連続: 30%
  • 3年連続: 50%

2025年贅沢税の段階基準額(マルチティア制)

段階基準額
第1基準額$241M
第2基準額$261M($20M 超過)
第3基準額$281M($40M 超過)
第4基準額$310M($60M 超過)

基準額大幅超過による追加課税率

基準額を大幅に超過した場合は追加の課税があります。

超過額追加課税率
$20M〜$40M 超過+12%で計算
$40M〜$60M 超過初年度 +42.5%, 2年目以降 +45%で計算
$60M 超過+60%で計算

追加ペナルティ(ドラフト指名順位降格)

超過額に応じてドラフト指名順位が下がる追加ペナルティもあります。

  • $40M 以上超過:翌年のドラフト1巡目指名順位が10位下がる
  • $60M 以上超過:翌年のドラフト1巡目と2巡目指名順位がそれぞれ10位下がる

MLBドラフトについてはこちらの記事で解説しています。

クオリファイング・オファー(QO)に関するペナルティ

贅沢税課税対象チームが他球団のクオリファイング・オファー(QO)を拒否してFAとなった選手を獲得した場合もペナルティが発生します。

  • QOを拒否したFA選手獲得:インターナショナル・ボーナスプール$1Mが差し引かれ、翌シーズンのドラフトの2番目と5番目に高い指名権を失います

贅沢税超過は一度基準額を下回ればリセットされ、翌年以降また超えた場合も「1年目」として扱われます。

クオリファイング・オファーについてはこちらの記事で解説しています。

インターナショナルFAについてはこちらの記事で解説しています。

2025年贅沢税対象チームの状況(2025年8月時点)

2025年8月時点での主要チームの年俸総額と贅沢税の状況は以下の通りです。

順位チーム年俸総額超過額推定課税額
1位ロサンゼルス・ドジャース$407,034,950$166,034,950$158,038,445(史上最高額更新見込み)
2位ニューヨーク・メッツ$338,708,938$97,708,938$82,879,832
3位ニューヨーク・ヤンキース$316,014,917$75,014,917$57,916,409

引用元:sptorac

※金額はシーズン終了後に確定するまでチーム編成により変動します。参考値としてご覧ください。

1. ロサンゼルス・ドジャース

ドジャースはすでに4年連続で贅沢税を支払っており、今シーズンも高い税率の対象となります。年俸総額 $407M 超で贅沢税は$158Mを超える見込みです。

2. ニューヨーク・メッツ

メッツのロスター年俸総額は$338Mで、ドジャースに次ぐ2位となっています。メッツの基準額超過は3年連続となり、MLBの最高額支出チームの一つとなっています。

3. ニューヨーク・ヤンキース

ヤンキースの総年俸は$316Mとなり、3年連続の基準額超過となる見込みです。

2024年の贅沢税支払い状況

2024年には9つのチームが贅沢税を支払うことになります。これは近年で最も多い数となり、高年俸化の傾向を示しています。

チーム贅沢税支払額
ロサンゼルス・ドジャース$130M
ニューヨーク・メッツ$97.1M
ニューヨーク・ヤンキース$62.5M
フィラデルフィア・フィリーズ$14.3M
アトランタ・ブレーブス$14M
テキサス・レンジャーズ$10.8M
ヒューストン・アストロズ$6.4M
サンフランシスコ・ジャイアンツ$2.4M
シカゴ・カブス$570K

贅沢税の球団経営・戦力補強への影響

贅沢税が球団経営・戦力補強に与える影響は以下の通りです。

高年俸チームへの制約

  • 高額の税負担:編成への影響。
  • ペナルティによるドラフト順位降下:将来戦力の補強への影響。
  • FA戦略:補強への影響。

低年俸チームへのメリット

  • 分配金の受取:贅沢税収入の一部がスモールマーケットチームに分配。
  • 高年俸球団の補強抑制効果:戦力の均衡化。
  • ドラフト指名順位:高順位での選手指名。

トレードデッドライン前に高額契約選手の放出後払いによる年俸総額調整など戦略的な編成が必要となります。

MLB選手会との交渉動向

贅沢税制度はCBA(労使協定)の最重要議題の一つです。選手会は基準額の大幅引き上げを求める一方、オーナー側はサラリーキャップ導入を主張する傾向があります。

次期CBAへの展望(2027年以降)

オーナー側と選手会側で要望が大きく乖離するため、双方がどの程度歩み寄れるかが争点となります。

  • オーナー側の要望:サラリーキャップの導入
  • 選手会の要望:贅沢税基準額の大幅引き上げ

次回の協議で2027〜2031年までの労使協定が決定します。

まとめ

MLBの贅沢税制度は、サラリーキャップを導入していないMLBにおいて、リーグ全体の戦力均衡化を図る重要な制度です。

特にドジャースの課税予想は制度史上最高額であり、メッツ、ヤンキースと合わせて「ビッグスペンダー」3球団の動向が注目されます。

この制度は単なる税ではなく、戦力均衡・球団経営・リーグの未来を左右する重要要素です。次期、労使協定交渉の結果によっては、MLBの構造そのものが大きく変わる可能性があります。

最後までお読みいただきありがとうございました。この記事が参考になれば幸いです。

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